駆 動 輪 。

その脚を、ゆっくりと前へ。

1-1

小説家になりたいんだ--

その一言が彼女を傷つけ、そして今の僕を生んだ。

 

 

 

浅木との同居生活も7年目の春を迎えた。

中学校時代の陸上部部長だった僕と女子テニス部部長だった浅木は部長会議などで一緒になることが多く、互いに互いのことを色々話せる間柄だった。それは2人の感性や価値観が似ていたからかもしれない。それとテニス部だった彼女のことも含めて、中学卒業後も定期的に連絡を取っていた。

 

彼女と別れてからは何処からか生まれてくる罪の意識もあって連絡はなかったのだが、成人式で再会してから再度連絡を取るようになった。その頃、僕は東京で就職し日々弾力を失いつつも何か新鮮さを探し働いていて、浅木は大学に通いつつ、歌手という夢を追いかけて同じくして上京していた。その後、浅木が金銭的に困っているのを見かねて冗談半分で同居に誘ったのだが、よっぽど切羽詰まっていたのかすぐに荷物をまとめて僕が住む1LDKのアパートにやってきた。お互いに男女としての壁よりは、同じ人間性を持った同士、浅木は特に抵抗がなかったようだった。

 

しかし7年である。お互い今年で27歳。両親から結婚がどうの孫がどうのと心配という嫌味を言われ始め、もちろんお互いにそういう人が今までいなかったわけではないのだけれど、僕に関して言えばどうしても過去が足枷として悪意を持って僕の気持ちを後ろ向きにしていた。浅木もそれを理解しているようで特に何か言ってくるわけでもなく、というよりかお互いに過去の話はしないように避けていた。

おそらく浅木が結婚に踏み込めないのは夢を諦めきれないということよりも、ある晩酔った勢いで友人の一線を越えてしまったことが原因だろう。確かにいい年した男女が一つ部屋で一緒にいればそういうことが起きないわけではないが、お互いに日々のストレスと不満に埋もれたような顔のまま、しかしながら心のどこか埋まらないモノを埋めたいという人間的欲求を満たしたくて、ほとんど毎日のように身体を重ねてしまった。それが更に日々の弾力と新鮮さを失っていくのだが。

 

「ねえ、中学の同窓会の招待きた?」

ある日のお昼。2人で寝るには少し狭いベッドの上でお互いの肌が触れあい温かさが伝わる距離にいた浅木が携帯を触りながらそう聞いてきた。

「そういえば拓真から連絡きてたな....お前いく?」

「私は........いくよ。」

僕はぼんやりと、かつて白かった、今は少し汚れた天井をみつつ「そうか」とだけ答えた。その場で「じゃあいこう」とはいえなかったのは、もしかしたら彼女が来るんじゃないかという期待と不安と過去への執着があったからで、おそらく浅木は言葉にしなくても分かっているだろう。

「でもさ.......私もアンタもそろそろ一歩進まなきゃ、だよね。」

 

陽は暖かく、そして冬の寒さを乗り越えたピンク色の蕾が咲き、そして散るまであと1ヶ月。