駆 動 輪 。

その脚を、ゆっくりと前へ。

1-3

地元に戻ってきたのは昨年、浅木が親戚の葬儀に出席する際に休みを取って一緒に帰省した以来だ。

この街は便利でも不便でもない普通の街だったのだが、22歳から昨年までの4年間訪れない間に街並みはだいぶ変わっていた。駅のいたるところで工事が行われ、駅の正面にあったビルもリニューアル工事だかが進んでいた。のだが、1年たった現在はそれらの工事も終わり、ガラス張りの高層ビルやショッピングモールが並び、駅前ロータリーも綺麗で大きなものに変わっていた。あるビルのテナントには東京で有名な菓子屋なんかが入っている。良い意味で変わった地元を目の前に、竜宮城から戻ってきた浦島太郎の気持ちが少し分かった気がした。

 

「会場、駅横のあのホテルだよね....?」

浅木がどことなく目線をやりながらそう言った。その表情は少し満足げで、どうやらハマっていた携帯ゲームをクリアできたらしい。が、ソレとは対照的に発した言葉には重さを感じた。その言葉を下に引っ張っている原因はおおよそだが予想は付いている。しかしそのバッグを持って同窓会に参加すると決意したからには、もうソレは吹っ切れたんじゃないのか。

時間もちょうどなので、このまま会場まで行こうとすると、後のほうから浅木を呼ぶ声が聞こえてきた。振り向くとドレスを来た女性が2人。どうやら同級生らしい。俺は「いってこいよ」と浅木の背中を軽く叩いて見送った。どうやら会場までは一人でいくしかないようだ。

 

 

 

 

 

「さゆりー!!久しぶりだね、どれくらい振り!?」

薫に背中を叩かれた私は「じゃあまた後で」と言葉を残し、不安を引き連れたまま、同じテニス部だった優梨子と莉奈と合流した。莉奈は旦那との間に2人の娘を授かり幸せ真っ最中の主婦。優梨子はバツイチながら2人の娘を育てるシングルママだ。2人ともこの地元でそれなりの人生を送っているみたいで、時々LINEで近況報告がてら当時の仲間の話を聞く。優梨子はどちらかというと男に飢えているようで、今回の同窓会でいい男を引っこ抜いてやる!!と数日前活き込んでいた。どちらかというと経済的な不安と幼い娘達を育ててくれる支えが欲しい、という感じで下心はない、と信じたい。

 

「てか、さっき一緒にいたのって、もしかして水蓮寺くん......?」

「え、あー、うん。」

莉奈にそう言われて、あれが薫だと教えたくなくて、でも同窓会にいけばバレるな、と諦めて言葉を濁しつつ答えた。あれ、なんで私本当のこと言いたくないって思ったんだろう。別に私の彼氏でもなければ、莉奈には旦那がいるっていうのに。

「え、まじ!?あのオッサン!?嘘でしょ!?」

やっぱり、と納得した顔の莉奈とは対照的に、優梨子はその驚きを隠せず、競争で亀に負けた兎のような顔をしていた。それをみて私も莉奈もクスっと笑った。

「えーなにアイツ東京いったらあんなにイケメンになって、しかもスタイル抜群の美人のさゆりと7年も一緒に暮らして、でも彼氏でも旦那でもないってなんなの!?え、なんなの!?二人は何がしたいの!?どういう関係なの!?セフレなの!?なんなら私にも頂戴よ!!!!!」

「もー、優梨子人前でみっともないよー(笑)」

優梨子は血眼にして私に問い詰めてくる。その形相はまるで般若のような、どこか愛くるしさがある。

「薫とはなんだろうね、セフレかもしれないし、友達かもしれないし、彼氏かもしれないし.....ワカンナイや(笑)」

私はそう誤魔化し、引き連れていた不安を少しだけ置いて、2人と一緒にホテルへと歩き出した。

 

道中も優梨子は羨ましいだのその立場交換してくれだの、しまいには既成事実をつくって旦那として迎え入れようとまでいっていた。もちろん私も莉奈もそれが冗談だと分かっていたので、笑ったり、どうしたら攻略できるか、なんてくだらない話をした。一方で莉奈は美男美女でお似合いだよ、と言ってくれた。確かに薫はカッコイイ。中学の時にはこんなこと思うわけがなかった。

その他にも莉奈の家庭の、私たちからすればノロケ話を聞かされたり、優梨子は騙された男の愚痴と、でも娘達は可愛いと話してくれた。2人とも今をしっかり生きているようで、どこか活き活きとしている。

 

「ようこそ、アルマークホテルへ」

会場であるホテルのフロントで同窓会への参加の旨を伝えると、会場となる部屋まで係員が案内してくれた。しかしホテルの名前といい、この係員の声がどうも先ほどクリアしたゲームにでていた声優の蒼月昇に似ている気がしてならないのだが。

「お兄さん、いま彼女とかいるんですか?」と悪ノリで優梨子が問い、莉奈がそれを制した。学生時代よくみた光景にどこか懐かしさを感じ、出発前の不安と緊張は大分なくなっている気がした。そうだ、何かあっても私には彼女達がいてくれるんだ。

そんな優梨子の質問に戸惑い、笑いながらも、エレベーターであがった33階のパーティールームへと案内された。今更帰ることはできない。今夜は今夜で楽しもう。そう腹をくくって扉をあけた。